2015-05-02
2015年5月2日 明治座 午前11時開演 1階1列19番
「矢の根」
幕が開くときに、舞台手前の照明の後ろの木枠(?)の端の部分をひっかけて、一番下手の枠が客席の前に落ちた。すぐ近くにいた場内係がすぐに拾って直していた。
前回観たときは三津五郎だったな、と思い出した。寝る体勢のときに上半身を後見の上に倒すのが前回も印象的だった。
右近はうまくてそつなくこなす。後見の一人の喜昇が力綱を締めるときに拍手が沸く。太い綱をぐっと締めて、後ろに蝶のように開くように結ぶ様子を目の前で見られると嬉しい。
これ、確か大根が出たなと考えていたら、猿弥が連れて出てきた馬が大根を背にのせていた。右近は馬に乗って大根を手にして引っ込む。
「男の花道」
前半は、目が見えなくなった歌右衛門(猿之助)を玄碩(中車)が手術で治す。こんな大きい恩を受けたのだ、ということを説明する、後半の展開のためにあるような、わりとベタな芝居。
休憩の後、後半はすごく面白い。男女蔵のかっぽれ、猿之助の櫓のお七、老松の踊りも観られる。
二幕目の幕開き、浅野家の留守居役、田辺(愛之助)は妻(門之助)と、その妹(笑也)を連れて中村屋の芝居茶屋に来る。笑也の違和感ない若さに驚嘆。歌右衛門を褒めたり、紅葉狩りと偽って新吉原に出かけるらしい夫に抗議する、門之助の台詞がすごく面白くて、短いが贅沢な場面。
田辺は、贔屓の小桜太夫の目の病を治してもらうために、玄碩を宴席に招いた。田辺の顔を見て女将の秀太郎が、「長いこと名古屋に行ってみえて」と言うお遊びがある。 医者仲間の春庵(男女蔵)がかっぽれを踊った後、玄碩にも踊るように勧めるが、がんとして応じない。気を悪くした田辺は、玄碩が歌右衛門の恩人であることを知ると、文を書いて、この席に呼べ、刻限までに来なければ腹を切れ、という。玄碩は文を書き、女将が中村座に届ける、と言う。中村座の芝居茶屋から来た田辺は、今は歌右衛門が舞台の最中であることを知っていたのであった。
愛之助の田辺は、たぶん夜の部の「鯉つかみ」よりもはまり役。年上の妻をごまかして新吉原に行こうとしている浮気男も、意地悪な役も、ピッタリ。
中村座では、歌右衛門の「櫓のお七」が始まるところで、東蔵(竹三郎)が幕の前で口上を述べる。
人形振りの人形遣いの役は壱太郎。黒衣は、たぶん段一郎。
この踊りは、ほとんど最後まで見られる。お七が最後に太鼓を叩こうと梯子を上っている最中に東蔵が玄碩からの文を歌右衛門に渡す。梯子を下り、幕を閉めた後、幕の前で観客に事情を説明して、許してもらい、舞台にさっと階段がついて、下手通路を走って行った。
踊っている途中で手紙を渡す舞台関係者はいないだろうし、あそこまで来たら最後まで上って太鼓を叩いて終わったほうが、客に言い訳なんかしてるよりよっぽど速く終わるだろうに。
玄碩たちがいる宴席では歌右衛門が来るのを待っているが、刻限が来たので、田辺は自分が介錯すると刀を抜き、玄碩は腹を切る用意をする。刀を手にもって腹に当て、切る直前に、「ああ来ないかなあ」という顔で花道の方を見やる瞬間が、中車の演技の中で一番良かった。中車の魅力は可愛さか? その一瞬後に、声がして花道から歌右衛門が走ってきて、七三のところで倒れる。
しかし、「櫓のお七」の衣装のままではなく、しっかり別の拵えをしている。着替えないで来れば、こんなに焦らなくても間にあったはずだ。本当は時間は十分にあって、歌右衛門は着替えた後、一番盛り上がるタイミングで出ようと、玄碩たちをどこかから窺っていたに違いない。
着替えてきたのは「老松」の衣装で、玄碩の代わりに踊れといわれて、どや顔で「老松」を踊る。藤の柄の扇を持って踊る「老松」は、もう最高だった。小鼓は壱太郎。
歌右衛門と玄碩は手を握り合い、田辺の怒りも解けて、めでたしで終わる。
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