通し狂言「絵本合法衢」
2012-04-08


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2012年4月7日 国立劇場 午後12時半開演 1階1列

去年の3月とほとんど同じ配役だが、瀬左衛門役の段四郎の代わりに左團次、太平次の女房役は、吉弥の代わりに秀太郎。
左團次が二役になったことで話がわかりにくくなったかもしれない。瀬左衛門は確かに殺され、そこに、早変りで弟の弥十郎役の左團次が現れるので、一応説明されてはいるのだが、単に左團次が何度も出てくる印象を受けてしまう。

吉弥が色っぽかったので、今月は秀太郎になって少し残念な気がしたが、秀太郎は仁左衛門の女房役として年季が違う感じで、時蔵のうんざりお松と張り合うところが吉弥よりも貫禄があって面白かった。

去年は初日に観たので、毒蛇の血を入れた徳利の口がなかなか開かなかったり、籠の戸を開けようとしてはずしてしまったりするような不手際があったが、今回はそんなこともなく、演技も全体的にずっと練れていた。

仁左衛門は役を楽しんでいる。最初の休憩に入る前の幕切れ、大学之助が扇子の後ろで舌を出しているのも笑えるが、ひたすら冷血な大学之助より、悪党だが愛嬌のある太平次の演技が仁左衛門の真骨頂。財布をさぐって「50両」と喜ぶ表情や、与兵衛とお亀に同情したふりのウソ泣きが面白い。

太平次は愛嬌がある一方、非情な人殺しもする。強請りに失敗したお松が囲ってくれと言い寄るのを面倒に思い、井戸に放り込んで殺す場面がこの芝居の一番の見せ場だ。井戸に近づく前に、あたりをはばかる様子が、牡丹燈籠の殺しの場のようだ。

きょうは最前列で、お松が蛇を裂いて血を搾り出す手元がよく見えた。布でできた蛇だろうがよくできていて、最初に頭から皮を剥ぎ、次に口を持って身を2つに裂き、その後で身体を絞って血をとっていた。

田代屋に強請りに行ったお松の着物がかっこいい。お松は、この芝居の中では太平次に次いで魅力があるキャラだ。だから、強請りに失敗した後、あっけなく殺してしまうのが惜しい。お松が玉三郎でなく時蔵でも、ここで殺すのではなくもう少し活躍させてほしかった。

いたぶられ殺される与兵衛(愛之助)とお亀(孝太郎)は、非力。愛之助も孝太郎もよくやっているが、地味。不機嫌な顔の愛之助(与兵衛)と、仁左衛門(太平次)の2人の場面が珍しい感じがした。こういう和事の演技は愛之助は超安定している。

愛之助の与兵衛は最後、床下の鼠のように仁左衛門の大学之助に踏まれ、もがく。大学之助にはあまり魅力を感じない。この芝居で一番魅力的な太平次の最後を見せないで、大学之助の一言で片付けるのは間違っている。

きりっとした中に情のあるおりよ(秀調)、お米(梅枝)と孫七(高麗蔵)の夫婦、と周りはそろっている。梅枝はこの芝居唯一の若い美人。高麗蔵は今月も立役でちょっとさびしい。

最後の場は、大きな閻魔像の前で弥十郎と、その妻(時蔵)が大学之助を殺して瀬左衛門の敵をとる。そして、死んだ大学之助が起き上がり、二役の三人が並んで、私の目の前で「まず今日はこれぎり〜」の挨拶をして終わった。
[歌舞伎]
[孝夫と玉三郎]

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